「仕事仲間に褒めてもらっても、正直嬉しくない」
「自分が無能だとバレるんじゃないか、ハラハラしながら仕事をしている」
もしも度々そのように感じて、気持ちが落ち込んでいたなら、「インポスター症候群」の状態かもしれません。
今年(2020年)に入り、雑誌でも見かけるようになった「インポスター症候群」。海外では約40年前から注目されていたこの心理状況について、海外サイト等を参考にしながらまとめました。
「インポスター症候群ってなに?」
「自分がインポスター症候群だったら、どうやって対策するの?」
といった疑問に答えられる内容になっています。
インポスター症候群のセルフ・チェックを「【気分が落ち込んだら】インポスター症候群チェック・テスト 」で紹介しています。
※僕はあくまでも医療の素人です。インポスター症候群について、より詳しく知りたい方は専門家に相談されることをおすすめします。
他人事ではない、気分が落ち込むインポスター症候群
▲TED-Ed『インポスター症候群ってなに?』(日本語字幕あり)
インポスター症候群は、老若男女に関係している
インポスター症候群(impostor syndrome)とは、「成功を収めているにも関わらず、自分自身に自信を持てない状態」のこと。インポスターとは英語で「詐欺師」の意味です。「自分には能力が無いのに、詐欺師のように周囲の人間を騙している気分」に陥ることをいいます。症候群とついていますが、治療が必要な病気なのではなく、ある一定の心理状態を表す言葉です。
インポスター症候群は、研究者のポーリン・クランス氏(Pauline Clance)とスザンヌ・アイメス氏(Suzanne Imes)が、1978年に共同で発表した論文で初めて取り上げられました。論文名は『The imposter phenomenon in high achieving women: Dynamics and therapeutic intervention.』(成功した女性達におけるインポスター現象:ダイナミクスと医学的介入)です。
クランス氏の研究の発端は女性大学院生の多くに共通する、ある特徴に気づいたことでした。彼女たちは優秀な学生であり、成績も申し分がありません。にも関わらず、自信を持てずに常に不安を感じていたのでした。
発端からもわかる通り、当初インポスター症候群は女性特有の心理状態だとされていました。しかしその後の研究で、インポスター症候群に陥いる人の幅に際限がないことがわかりました。性別に関係なく、職業にも関係がないのです。
ノーベル物理学賞を受賞したアルバート・アインシュタイン博士でさえ、自身の研究業績に不安を持っていたとか。
米タイム誌のAbrams(2018)は「70%の人は、生きている間にインポスター症候群のような不安を感じる」と述べています。
日本社会に限定した場合、ほとんどの人がインポスター症候群に陥っているのではないでしょうか。
日本では「調子に乗るな」「周りに感謝しろ」「謙虚になれ」と言われ続けます。仮に面と向かって言われた経験がなくても、頭の中で自分自身に言ってしまう人が多いのではないでしょうか。
インポスター症候群の思考パターン
「自分が今まで達成してきたことに自信を持つことができない」心理状態がインポスター症候群の特徴です。特に次のような思考パターンに陥りがちな人は要注意。
完璧主義
「完璧主義」は大きく2タイプあります。①高すぎる目標設定と②スーパーマン的人間観です。
高すぎる目標設定
①高すぎる目標設定とは、客観的に見て実現が難しい目標を自分に課すことです。非現実的な目標を設定してるのだから、達成できなくて当たり前のはず。ところが本人としては、「目標達成できなかったのは自分の能力不足だ」と考えてしまい、自信が育たないのです。
例を挙げますね。同僚が3日かけて完成させる仕事を、あなたは1日で終えようと目標設定したとします。仮に2日でその仕事を終えたら、同僚と比べて十分効率的に仕事をできているはずです。そのため、あなたの職場での評価も高くなるでしょう。ところが本人としては、高すぎたとはいえ目標を達成できなかったので、己を責めてしまうのです。
スーパーマン的人間観
②スーパーマン的人間観とは、「自分は全知全能でなければならない」という考え方のクセです。
僕たちは神様ではありません。どんなに経験を積んだ専門家であっても、知らないことやできないことは必ずあるもの。しかしスーパーマン的人間観に囚われていると、少しでも知らないことやできないことがあると「自分は能力が劣っている。このことが周りにバレると、信頼をすべて失ってしまう。」と考えてしまうのです。「自分は全知全能でなければならない。さもなければ、他人から信頼されてはならない」と考えているので、常に「自分の無能さが暴かれること」を恐れてビクビクしてしまうのです。
「完璧主義」思考か確認するQ
・仕事では、常に100%の完成度でないといけないと感じますか?
・成功するためのスキルを磨こうとして、常に研修や資格取得を考えていますか?
独力主義
「問題はすべて自分の力で解決しなければならない」と考えることです。問題はすべて独りで解決すべきであり、「他人に協力を仰ぐこと=無能さの証明」と思い込んでいるので、周りの人に弱みを見せられずにますます「自分の無能さがバレる」ことを恐れるようになるのです。
「独力主義」思考か確認するQ
・「自分でやれます」が、口癖ですか?
・「自分の力で達成しなければ意味がない」と、強く思いますか?
努力=恥
「一度でできなかったり、努力してスキル等を身につけるのは無能さの証明だ」と考えるのが、「努力=恥」思考です。
いかなる天才も、人知れず努力をしているものです。アインシュタイン博士も長年に渡る努力の結果、ノーベル物理学賞を受賞できたのです。しかし「努力=恥」思考に陥っていると、そのことが頭から抜けてしまいます。少しやってみて上手くいかなければ「自分には才能が無い」と、簡単に諦めてしまいます。
「努力=恥」思考か確認するQ
・努力しなくても、人に秀でた経験はありますか?
・家族等からたびたび、「あなたは賢い」と言われましたか?
「自分がインポスター症候群なのか詳しく知りたい!」という方は「【気分が落ち込んだら】インポスター症候群チェック・テスト 」をぜひチェックしてみてください。
落ち込んだ気分を、どう軽くするか
インポスター症候群により自信を持てず、落ち込んでしまう時の対処法を4つ紹介します。
自分をいたわる
これが何よりも大切です。自信を持てていなくても、不安を感じてオドオドしてしまっていても、自分を大切にするのが最優先。親友が目の前で苦しんでいるのに、「そんなんじゃダメだ!」「甘えてるよ!」と言おうとは、これを読んでくれている人は夢にも思わないのではないでしょうか。まして自分自身は唯一無二な存在です。親友以上に丁寧に接することで、心に余裕が生まれるはず。
気分が落ち込み不安を感じている自分をありのままで受け止めた上で、「いつもありがとう」や「不安を抱えながら、今までよく頑張ってきたね」と、優しい言葉をかけてはどうでしょうか。心の波がしずまってくると思います。
過去と冷静に向き合う
自分が今まで成し遂げてきたこと、長年続けていることやスキルを書き出してみましょう。人間はネガティブな事柄に目がいきがち。照れ恥ずかしいかもしれませんが、今までしてきたことに目を向けてみましょう。誰かに見せるわけではないので、「毎朝時間通りに起きる」「ゴミ捨ての日にちを守る」のような些細なことであっても構いません。
「できないこと」や「できなかったこと」ではなく、「できること」や「できたこと」に目を向けることで、思考のバランスを取れます。
過去にできたことを書き心に余裕ができたら、次に少しネガティブなことに目を向けていきましょう。今の自信が無くて不安を抱えているあなたは、一朝一夕でそうなったわけではないはず。もしかしたら過去に「お前は駄目なやつだ」とか「みんな、あなたのことを嫌ってるよ」のような、ひどい言葉を言われた経験が悪い影響を与えているのかも。
心に無理がない範囲で、ショックだった経験を思い出しながら、「本当に自分はダメだったのだろうか」や「本当に、みんなは私を嫌っていたのだろうか」等、他の可能性についても考えてみましょう。
仕事で大きな失敗をした経験がある人は、果たして「本当に自分1人のミスだったのか」を冷静に考え直してみてもよいでしょう。
過去に対する別の解釈をすることで、自分の価値に改めて気付けるはずです。
「失敗すること」や「知らないこと」に対する認識を改める
さらにネガティブなことを考える余裕が出てきたら、「失敗すること」や「知らないこと」にプラスの意味を与えるようにしてみましょう。生きていく中で失敗や知らないことに出くわすのは、避けて通れません。恥をかくたびに落ち込んでいたのでは、どんなにポジティブな性格の人であっても気が滅入ってしまいますね。
例えば「失敗」や「知らないこと」を、成長の機会ととらえることができます。または自分一人の力の限界を知り、他者に感謝する機会と捉えられるでしょう。さらには今までの忙しすぎる生活習慣や、的外れだった勉強方法を見直すチャンスだと思えますね。
ネガティブな意味づけだけをしてきた出来事に、ポジティブな側面を見出すことで、今まで以上に前向きに生活できるようになるはずです。
周りに助けを求める
周りの信頼できる人に相談をしてみてはどうでしょうか。信頼できる人といっても、友人や家族だけではありません。カウンセラーや占い師のような「人の話を聴く職業の人」を頼ってみてもよいかもしれません。
僕も過去に、渋谷の占い師さんにお世話になったことがあります。普段は初対面の人に対して無口な正確なのですが、その時は不思議と普段考えていることを占い師さんに吐露できました。
相談とまでいかなくても、「周りに評価してもらっているのに、自信を持てない」という気持ちを親しい人と共有するだけでも良いと思います。SNSやブログで気持ちを吐き出してみるのも、胸の内に感情を閉じ込めたままにするよりも遥かに良いですね。
インポスター症候群の人の考え方の癖として、「完璧主義」と「独力主義」がありました。これらが合わさると次のように考えてしまいます。「周りの人も、このくらい高いクオリティで仕事をしているはず。自分の無知をさらしたくないから聴けないけど、きっとそうだろう。」
でもまわりの人の話を聴いて働き方を参考にさせてもらえば、もっとゆったりとした働き方でも良いと気づけるかもしれません。
ネガティブな感情と、いかに付き合うか
最後に、一番大切なことをお伝えします。
どれほど熱心に不安や恐怖に対処したところで、不安や恐怖というネガティブ感情が100%消えることはありません。仏様なら消えるかもしれませんが、仏様のように修行する時間を確保できる人は少ないはず。
「ネガティブな感情を消そう」とするのではなく、「ネガティブな感情と、いかに付き合うか」を考える方が大事なのです。
「人間には生まれながらの才能と、後天的な才能がある」という格言を読んだことがあります。すぐ上手くできなくても、努力を続けることで伸びる才能もあるはずです。
Jerry’s final thoughts
先日パラパラ読みしていた『VOGUE』で、インポスター症候群が特集されていたのを偶然見つけました。
時々ニューヨーク・タイムズ等で名前が出ていたので「インポスター症候群」の名前自体は、以前から知っていました。しかし今回日本の雑誌でも特集されているのを見つけ、「日本人でも関心が高まっている」と考えてブログ記事にしました。
僕自身も「本当の自分は能力が低く、自分勝手。どんな職場に行っても大きなミスをするし、誰と仲良くなっても最後には失望されてしまう。」という思考を日常的にしてしまいます。
「落ち込んだ気分を、どう軽くするか」に書いた対策は、参考文献を参考にしつつ僕なりのやり方を書きました。参考になれば幸いです。
※僕はあくまでも医療の素人です。インポスター症候群について、より詳しく知りたい方は専門家に相談されることをおすすめします。
参考文献
1.Elizabeth Cox『What is imposter syndrome and how can you combat it?』 https://youtu.be/ZQUxL4Jm1L
2.Abrams, Abigail(2018)『Yes, Impostor Syndrome Is Real. Here’s How to Deal With It』https://time.com/5312483/how-to-deal-with-impostor-syndrome/
3.Wilding, Melody『5 Different Types of Imposter Syndrome (and 5 Ways to Battle Each One)』https://www.themuse.com/advice/5-different-types-of-imposter-syndrome-and-5-ways-to-battle-each-one
4.Dalla-Camina, Megan(2018)『The Reality of Imposter Syndrome』https://www.psychologytoday.com/us/blog/real-women/201809/the-reality-imposter-syndrome
5.Corkindale, Gill(2008)『Overcoming Imposter Syndrome』https://hbr.org/2008/05/overcoming-imposter-syndrome
6.『Impostor Syndrome Test』 https://shar.es/aHUkEA
7.Motoko, Jitsukawa & Haruna, Fujimura(2020)「インポスター症候群を力に変える、8つの方法」『VOGUE JAPAN』2020年5月号, pp.152-159
※本誌には、精神医学の専門家の意見やハリウッド・セレブたちの「自信のつけかた」も掲載されています。
SNSやってます
最後までお読みいただきありがとうございました。Twitterでも英語学習等についてつぶやいています。
チェックしていただけたら幸いです。よろしくお願いします。
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[…] 「インポスター症候群」のさらに詳しい説明は他人事ではない、気分が落ち込むインポスター症候群 を読んでみてくださいね。 […]