「学校や会社で辛いことがあった」
「何となく気分が塞がっている」
といった人には、サイレントコメディ映画がオススメ
自分でセリフや状況を考えないといけないので、脳みそが他のことを考える余裕がなくなるから。
中でもバスター・キートンの映画は、アクションが多くて、サイレント映画が初めての人でも楽しむことができる。
今回はバスター・キートンの映画の中でも、『cops』という映画に注目。見どころやわかりにくい場面の解説を執筆している。
バスター・キートンが手掛けだ12作目の短編

『Cops』(『警官騒動』『キートンの警官騒動』)は、バスター・キートンが手掛けた12作目の短編である。
監督:Buster Keaton and Eddie Cline
公開日: 1922年3月
上映時間:18分
キャスト
Buster Keaton: 獲物
Virginia Fox: 市長の娘
Joe Roberts: 私服刑事
Eddie Cline: ジャケットを買う男
あらすじ
キートンが惚れている女性は、良家のお嬢様。貧乏人には一切興味がない。「私と付き合いたかったら、ホリエモンみたいな大金持ちになりなさい」と、冷たくキートンを追い払う。
諦めきれないキートンは、ひょんなことから手に入れた(と勘違いしている)家具一式を元手に商売を始めようとする。しかし移動中に警察のパレードに遭遇して…
ここだけは観て!
警官警官警官警官警官!!!!!
映画の後半、無数の警察官がキートンを追いかける様は圧巻。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の100人隊にも、きっと影響を与えているだろう。
トラック片手にピョーッい
警察に追いかけられる途中で、警察とキートンの間に入ったトラックをキートンが掴んで走り去るというシーンがある。
実はこのシーン、キートンの筋力の凄さを証明するシーンとして、ドキュメンタリー映画によく登場するのである。
僕は実際に試したことはないが、トラックを掴んだ瞬間に地面と水平以上に足を持ち上げられる役者は滅多にいないそう。
解説
英語や英語圏文化を勉強中の人でも楽しんでもらえるよう、ここでは字幕と背景知識を解説する。なお、出典を示していない訳はジェリーわたなべ独自のものである。
字幕
Love laughs at locksmiths.
Houdini
「恋は錠前屋をあざ笑う」(出典)
鍵をかけて心の奥に閉じ込めようとしても、恋心はつい表情などに出てしまうという意味。
似たような意味の和歌が百人一首にも見られる。
しのぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで
平兼盛
「心に秘めてきたけれど、顔や表情に出てしまっていたようだ。私の恋は、『恋の想いごとでもしているのですか?』と、人に尋ねられるほどになって。」(出典)
恋心は洋の東西を問わずに普遍的であると述べているのだが、実は『Cops』の内容とはあまり関係がない。
ちなみにこの教訓を述べたHoudiniとは、奇術師のHarry Houdini( ハリー・フーディーニ、1874年3月24日 – 1926年10月31日 )のこと。手錠を外しての脱出系の奇術を得意としていた。
また、キートン一家とも仲がよく、バスター・キートンに「バスター(buster:特別に丈夫な子ども)」という名前をつけたのはフーディーニである。

I won’t marry you until you become a big business man.
「私と結婚したかったら、立派なビジネスマンになって」
I’ve telephoned for the expressman.
「運送屋に電話しておいたよ」
・expressman: 〈米〉〔宅配便の〕配送員
I’m broke and they threw me out.
「一文無しになって、家を追い出されちまった」
・broke:(形容詞で)〈話〉無一文の
・they:債権者を指していると思われる
If I don’t sell my furniture my wife and babies will starve.
もし家具が売れないと、妻と子供が餓死しちまう
・furniture:家具
・starve:飢えに苦しむ、餓死する
Once a year the citizens of every city know where they can find a policeman
「年に1度、あらゆる街の住民は、どこに警察官がいるか知っている日がある」
毎年恒例の警察官のパレードが、とても有名であることを意味している。
・where they can find a policeman:どこで彼らが警察官を見つけられるか
Get some cops to protect our policemen.
「警察官を守るために、もっと警官を呼べ」
・copは口語的表現、policemanは丁寧表現という違いが一般的にある。しかしここでは、意味の違いは無く、同じ語を使うことを避けているだけだろう。
Goat gland specialist?

映画の中盤で次の看板が出てくる
Dr. Smith
Goat Gland
Specialist
この看板の意味は何だろうか?
直訳すると「スミス医師。ヤギ腺の専門家」という意味になり、何のことだかわからない。
実は「goat gland」とは、1920年頃に流行していた偽医療だった。
どうやら「ヤギの睾丸を男性に移植して、精力を増強することを目的とした手術」だったらしい。
なので映画の中では、馬車を引けなくなった老馬がこの手術を受けることでいきなり元気いっぱいになったのだ。
ちなみにこの偽医療を提唱した人物もわかっている。John R. Brinkley(ジョン・R・ブリンクリー、1885年7月8日 – 1942年5月26日)である。
ブリンクリーは医師免許も無ければ医学を勉強した経験も無いにも関わらず、勝手に「goat gland」療法を初めてしまった。
20年ほどは上手くごまかせて、莫大な財産を築いたようだ。一時はカンザス州知事に立候補するまでの影響力を持った。しかし晩年は、医療ミスに関する訴訟などのため無一文になっている。

実際に映画を観る
Copsはパブリックドメインであり、インターネット上で誰でも観ることができる。
Jerry’s Final Thought
前半は馬車を使ったギャグ、後半は伝統的なおいかけっこで笑わせてくれる。特においかけっこが始まってからは、時間があっという間に過ぎてしまう。嫌なことを一瞬でも忘れたい時に観るには最適だ。ただし、警察をコケにする内容なので、小さなお子さんに見せる時は注意が必要かもしれない。
★★★★
出典
- Internet Movie DataBase( IMDB):画像
- The International Buster Keaton Society:基本情報
- ALC:訳語
- YouTube:動画
- バスター・キートン&チャールズ・サミュエルズ(1997)『バスター・キートン自伝‐わが素晴らしきドタバタ喜劇の世界‐』筑摩書房:基本情報
- Wikipedia
- ちょっと差がつく百人一首講座
- 教訓 254. 恋の力は強い
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コメント
[…] ラストの大追いかけっこは、日常生活のすべてを忘れて映像に没頭できます。ただし前半部分で馬に電話をするシーンや、馬に精力増強の手術をするシーンは背景知識が無いとわかりにくいかも知れません。(背景知識については『警官騒動』は『元気が出るテレビ』だ!?で解説しています) […]
[…] 『警官騒動』は『元気が出るテレビ』だ!? […]